
3 「らしさ学習」の学習指導計画とその実施
ここでは実際の授業での生徒の反応も含め、「らしさ学習」が生徒に好まれ、意欲的に取り組める授業形態であることを示そう。そのために、まず、バレーボール・器械運動・陸上競技について学習指導計画を作成し、さらに、実際の授業を通しての様子を報告する。
ここでは修士論文をそのまま引用する。
学習指導計画の作成の前に「らしさ学習」の特徴を簡単にまとめると、次のようになる。
@ そのスポーツそのものを学習内容とし、「らしい」部分から学習する。
A ルールや用具等を変更・工夫し、初歩的な段階からそのスポーツの特徴的な特性に迫る。
B 技能は付随的に獲得し、さらに深めるための課題と捉える。
「らしさ学習」では、指導者の教材観が重要となっている。指導者の教材観により特性の捉え方が一人ひとり微妙に違ってくる。ここではその一つの例を示すことになるが、指導者によりそのスポーツの特性へのアプローチも当然違ってくると思われる。
@ バレーボールの学習指導計画とその実施
ア 今までの学習指導の見直し
従来のバレーボールの指導では、必ずパス練習から入り、基礎的な技能を習得したところで、または、その途中からゲームに入っていく。1年生の段階では、バレーボールの醍醐味であるスパイクもままならず、パスアタック程度の攻撃に留まる。サーブを指導すればするほどレシーブができず、ゲームはつまらなくなる。このような悩みはどこでも聞かれるものである。
今までの実践例からも様々な工夫・改善が報告されている。人数・回数・コートの広さ・ネットの高さ・ソフトバレーボールの使用・ワンバウンドバレー等々。ワンバウンドバレーもやってみれば分かるが、机上の計算通りにうまくは機能しない。つまり、ボールが高く弾まないため、次のアンダーハンドパスがうまくできない。実際のゲームに例えるなら、ネットを越えたボールではなく、ネットの下からくるようなボールに反応する、そんな状況である。イメージ通りのプレイにはけっして結びつかない。
戦術面でも、1年生の段階では戦術らしいものは何もないのが普通だろう。しかし、生徒は知恵を絞り、試合に勝つための工夫をする。相手コートからきたボールは一度で返す。これは立派な戦術である。仲間で何とかボールを回しているうちに結局は失敗してしまう。苦労してパスアタックにもっていくよりは一度で返した方が試合に勝つ。先生は何度か回しなさいと言う。生徒の感覚では全くの矛盾である。将来の三段攻撃のために、セッターのトスの意識を高めるために危険なパス回しをさせられる。このやり方は今教育界で問題になっている、典型的な「将来の準備としての教育」である。生徒は実感として、明確な目標として捉えることはできないのである。
バレーボールはこのような弊害を併せ持った教材と考えると、根本的な解決には180度の発想の転換が必要となる。技術的な系統で押していくには無理がある。技術的な指導ではない別の方法を考えなければならないのである。
イ 教材観
バレーボールの一般的特性についてはここでは省略する。バレーボールらしいプレイとはどのようなプレイなのだろうか。それは単なるスパイクではない。三段攻撃でもない。三段攻撃(レシーブ・カバー・トス・アタックの四段攻撃でもよい)によるスパイクに対し、二枚のブロックが跳ぶ。後衛はブロックの位置から計算し、ボールの落下地点を読む。また、攻撃側は相手ブロックに備え、後衛も前に出てブロックカバーを準備する。そしてセッターは、速攻を含めた多彩な攻撃を駆使し、相手の裏をかく。このような戦略性に富んだゲームをバレーボールらしいゲームと私は位置づける。
バレーボールは創造性豊かなスポーツである。攻撃を考えれば、強力なスパイクで、力でねじ伏せる。かと思えば、ブロックの後ろにフェイントを落とす。また、セッターと相手ブロッカーとの駆け引きに妙がある。セッターはブロックを振ろうといくつかの攻撃パターンを駆使する。速攻あり、時間差ありである。
守備は確率の応用である。二枚のブロックで一番危険な範囲をふさげば、スパイクのコースが読めてくる。それぞれの役割を果たすことによって確率の数字が高くなる。はじめから打ってきそうな場所で待ちかまえる。しかし、相手のスパイクはそれを打ち砕く。この辺がバレーボールの醍醐味だろう。単なるスパイクの強さだけではそれは感じられない。ブロックをうまく振り、ノーブロックでドカンとくれば、誰でも取ることは不可能である。チーム内の一人ひとりの役割によって、また、攻撃・守備でのそれぞれの戦術のうえに成り立つスポーツだから、最後のスパイクもドラマになる。
このような筋書きのない、創造性豊かなドラマを生徒に演じさせてやりたい。
ウ 「カッコイイ」プレイのイメージ
最初は何といってもスパイクである。強烈なスパイクであればあるほど印象は強い。しかし、バレーボールに興味を持ち、テレビの映像でゲームをみれば、その見方も変わってくる。単なるスパイクではなく、速攻や時間差など、戦術を駆使した攻撃に魅力を感じる。目が肥えてくれば、セッターのトス回しにも興味を示す。ぎりぎりのボールを転がりながらオーバーハンドでトスを上げる。「カッコイイ」プレイの連続である。最近、バックのプレイヤーが「津雲だ〜。」といって飛び込んでいく。生徒の見方は多彩である。
エ 1年生の学習指導計画とその実施
@ 単元名 バレーボール(キャッチバレー)
A 単元でつけたい力
(1) 戦略性豊かなバレーボールの特性に触れ、基礎的技能の獲得・戦術の理解に意欲を持 ち、バレーボールを楽しむことができる。(関心・意欲)
(2) 各自の役割を果たすことでチームに貢献し、それぞれの役割の中で個性を発揮し、チ ームと各自の努力の方向を意識することができる。(思考・判断)
(3) 多彩な攻撃を行うための基礎的技能を習熟し、それぞれの役割に基づいた動き方を理 解し、確率の高い守備隊形を基本にしたチームとしての攻め方・守り方ができる。(技 能の向上)
(4) ネットやボールを安全に配置することや準備運動を十分に行うとともに、運動のしか たで危険のない行い方を理解し、安全に気をつけて運動することができる。(安全)
B 教材研究
(1) キャッチバレー
一般的な特性としてバレーボールは、ネットによって敵・味方がはっきり区別され、3回の間にボールを落とさず、しかも静止させることなく相手コートに返すことによって得点を競い合う競技である。これを体育の授業として効果的な指導のためにルールを工夫する。今までの例では、三回という回数を変え、ワンバウンドバレーでは落とすことをも認めた。このキャッチバレーは静止することをも認めるのである。それではバレーボールではないと言う人もいよう。「スポーツの独自性を損ねない範囲」を越えていると言う人もいよう。しかし、これはあくまで体育の授業である。競技ではない。部活動でもない。バレーボールの特性をそのまま楽しむための学習は、また、それを効率よく学習するためには、何を優先するのかの判断である。しかも、限られた時間の中で。
このキャッチバレーは、最初の一時間目より球技の特性であるゲームを行いながらの学習となる。基礎技能の定着はすべてゲームを通して行う。何にも増してゲームを最優先するのである。ゲームのないバレーボールはバレーボールではない。そのためにキャッチする。ボールを一時静止させるのである。
不思議なことに、ボールを静止させるだけでパス以外のすべてのプレイが初歩の段階より可能になる。スパイクやブロックはもちろんのこと、速攻やフェイント、レシーブ隊形、ブロックカバーなどのチームの戦術までもがそうである。今までのような指導では、ブロックを一度も経験せずに卒業する生徒もいる。ブロックの技術はスパイクの上達に伴い必要になる。確率高くスパイクが飛んでこなければ、ブロックは無用の技術となってしまう。このキャッチバレーでは、ボールを落とさなければ必ずスパイクがくるので、積極的な守り方として必ずブロックに跳ばねばならない。一時間目より、スパイクとブロックのあるスリリングなゲームとなる。そして徐々にパスの技術を導入して、本物のバレーボールへと指導していく授業の流れである。
また、一時静止することにより時間的な余裕が生まれる。生徒が主体的に自分の判断でプレイするにはその僅かな時間が役に立つ。攻撃のために一度ボールをセッターに渡し、アタッカーはセッターが一時ボールを保持している間に後ろへ下がり、助走をつけてスパイクを打とうとする。このような基礎的技能の定着には、その僅かな時間がとても有効である。ブロックカバーなどのチームの戦術の指導もこれで可能になる。
戦略性のあるバレーボールの楽しさは、個々の技能の定着だけでは味わうことはできない。キャッチバレーによる時間的余裕を利用し、戦術を中心にした指導でバレーボールの特性をそのまま学習するものである。
(2) 戦術指導
今までの指導の流れでは、戦術の指導はほとんどされていなかった。三段攻撃の形にもっていくだけで精一杯であった。結果的にみると、まるで戦術は基礎的な技能の中に含まれてはいないように。戦術も指導しなければならない基礎・基本の一つである。
バレーボールの楽しさは戦術にある。戦略性あるプレイこそバレーボールの神髄、プレイフルな活動である。バレーボールは何とか三段攻撃ができるという達成型のスポーツではない。できて喜ぶような代物でもない。三段攻撃(何段でもよい)を一つの道具として、たくさんのパターンを駆使し、多彩な攻撃を仕掛ける。二年生になってAクイックを学習すると自然とおとりのプレイが出てくる。フェイントも効果的に使い、時間差攻撃もしたいという。バックアタックをしてもいいかともいう。このように意欲的な生徒の主体性をもとにチームの戦術を学習の中心として指導し、個性はチームプレイの中で生かしていくと考えていきたい。
(3) 役割を果たす
このキャッチバレーの特徴の一つに各自の役割を明確にする指導がある。一年生では4人制バレーで行い、前衛の右がセッター、左がアタッカー(右利きの場合)とする。後衛の二人はレシーバーである。昔のルールでローテーションを行うので、全員がそれぞれのポジションを経験する。
二年生では6人制になるが、三人組による前後だけのローテーションとし、役割は固定する。それぞれセッター・センター・レフトとする。セッターの役割はもちろんトス回し。センターはブロックの中心と速攻役。レフトは大砲役である。
三年生になるとセッターの重要度が増す。中にはツーセッターのチームも現れる。もちろん後衛のセッターがトスを上げ、前衛に回るとアタッカーになる。
このように役割をはっきりさせることは、一人ひとりが各自の役割をしっかり果たすことでチーム力アップに貢献することをねらっている。よくチームプレイが話題になる。しかし、今までは精神的な面ばかりが強調され過ぎていた。互いに励まし合っただけでは強くなれない。もっと具体的に、誰がどんなプレイをしてチームに貢献するかを明確にすることによって互いに助け合うことができる。がんばる方向が分かれば努力はしやすい。分かりやすい評価につながるともいえる。
C 単元計画
1 ねらい
キャッチバレーによるバレーボールらしい攻防のあるゲーム
2 1年生の指導計画(10時間扱い)
1年生の指導計画は表1-1の通りである。
| 学 習 内 容 | |
| @ | オリエンテーション |
| A | ゲームのしかたの確認とゲーム |
| B | スパイクとアンダーハンドサーブ |
| C | スパイクとブロック |
| D | オーバーハンドパスとフェイント |
| E | アンダーハンドレシーブとアタックに対する守備隊形 |
| F | サーブレシーブ隊形 |
| G | ブロックカバー |
| H | 早いプレイ |
| I | 交流試合 |
表1-1 1年生の指導計画
3 授業展開
1時間目 (教室でのオリエンテーション)
本時は、まずキャッチバレーの概要を説明し、4人制バレーによるゲームのやり方を確認させた。生徒にとっては中学校に入学して初めての単元ゆえ、丁寧に説明している。説明したルールは以下の通りである。
・下から両手で上げたトスをスパイクする。
・スパイクの時、相手の前衛の2人は必ずブロックに跳ぶ。
・前衛(セッターとアタッカー)、後衛(レシーバー)の役割を確認し、ローテーショ ンの方法を理解する。
・サーブはサーバーがコートの後方(コートの中)から投げ入れる。
・ネットは身長に合わせ、2コート通し、斜めに張る。
・身長順に4人のチームを作る。(5人も可)
・なるべく軽量ボールを使う。
・コートの広さは互いのチーム同士確認する。ラインには拘束されない。
・左利きの生徒のため、臨時にセッターとアタッカーの位置を交代させる。
2時間目
黒板の代わりに鉄板のドアを利用し、マグネットを使ってゲームのしかたを再確認した上で、さっそくゲームを行う。しかし、生徒はすぐにはゲームにならなかった。トスを丁寧に上げないためスパイクが打てず、当然ながらブロックの意識が持てなかった。さらにローテーションの仕方が分からずうろうろしている者もいた。そこで教師はそれぞれの班をまわり、ゲームが成立する必要最低限の指導をしてゲームを進めさせた。その結果、授業の中盤あたりでゲームが流れ出し、歓声も聞こえるようになってきた。
ノートより 「ちゃんとトスが上がらなかった。」「チームがバラバラでまとまっていない」
3時間目
一応ゲームができるようになったので、これから技術的なこと・戦術的なことに目を向けさせる指導に入った。
まず、スパイクを打つとき、後方から走り込むことを指導する。
・1,2・3または1,2,3・4の助走
・スパイクを打ちやすいトスについて確認する。
・アンダーハンドサーブを練習し、今後これを使う。
4人制のキャッチバレーに慣れ、ゲームが楽しくなってきた。ときどき強いスパイクも現れ、レシーブに走り回る量が増えてきた。全体的にはまだブロックが形だけで効果を発揮していない。
ノートより 「サーブを確実に打つ。」「だんだんチームがまとまってきた。しかし、ブロックがうまくいかない。」
4時間目
新たな指導として、スパイク・ブロックの技術を高めることを意識させた。ネットから少し離したトス−ブロックとの関係、スパイクの助走、ブロックの手の角度等を再確認し、さらに、ゲーム中、技術的にうまくいかなかった部分を互いに改善方向を要求させていた。
また、額の上でボールを保持し、オーバーハンドパスの形でトスを上げさせ、徐々に本物に近づける。強いスパイクに対するブロックが決まり、歓声が上がる場面も増えてきた。
ノートより 「まだスパイクがうまくいかない。」「アタックの時、ちゃんと走り込まないことが多いから、走り込むようにして打つ。」「ネットの向こう側に手を出してブロックする。」
5時間目
新たな指導は、自分で頭上にボールを上げ、オーバーハンドパスでトスを上げることと、ネットに近いトスの時、ブロックが強くなるのでフェイントを使うことであった。セッターはネット近くにトスを上げるため、強く打てば打つほどブロックにやられる。そんな状況の打開策としてフェイントを指導したが、実際に使えるようになるにはまだ時間がかかった。また、直上からオーバーハンドパスになったが、個人差を互いに認めたため、相変わらず両手で下からトスを上げる生徒もいた。
ノートより 「オーバーハンドパスがうまくできるようにする。」「正しいやり方を覚える。繰り返し練習する。」
6時間目
新たな指導として、 サーブに対し、アンダーハンドのレシーブに挑戦させた。そして、レシーブ後キャッチしている。また、ボールを持ったまま歩いて移動しないようにするため、ボールをつなぐときは全員、キャッチした後オーバーハンドパスを使うよう指示していた。さらに、アタックに対するレシーブの形をも学習していた。常に2枚がブロックに跳び、スパイクの落ちる範囲を見通した守備隊形を作らせた。しかし、実際はアンダーハンドのレシーブではなかなかボールが拾えず、能力の高い生徒のみが意欲的に挑戦し、他はキャッチに頼る傾向にあった。
ノートより 「ボールを取れない。」「アンダーハンドのレシーブがしっかりできるように、たくさんチャレンジした。」
7時間目
生徒は新たにサーブレシーブの隊形を学習した。セッターがネット際で後ろを向き、残りの3人で三角形になり、サーブに備えた。生徒は三角形をかなり意識していた。この結果、サーブがぽとりと真ん中に落ちることはなくなった。しかし、まだ半数以上がサーブをそのままキャッチしている。レシーブ後はスムーズに攻撃に入り、スパイクも強くなってきた。ブロックもかなり決まり、ゲームが白熱してきた。
ノートより 「三角形と作ってサーブをとる。」「立つ位置をちゃんとして、レシーブができるようにする。」
8時間目
ブロックカバーの指導をした。ブロックに跳ね返されるボールの落ちどころを確率的に理解させ、後衛の動きを指導していた。そして、後衛が前に出て拾うことで、また攻撃につながることを意識づけていた。キャッチバレーのブロックカバーはぎりぎりのボールでも掴むことができるため、このプレーが生きてくる。この指導により生徒の動きの量は格段に増え、チームプレーで対応するバレーボールの特徴が4人制のゲームの中でも実現していた。
ノートより 「ブロックカバーをしたことでボールが取れるようになったが、まだボールがうまく取れないときがある。」「ブロックカバーをしようとたくさん動いた。」
9時間目
この時間は特に新たな技術的指導はなかったが、早いプレーを心がけさせた。できるだけボールを持たない。また、持ってもすぐパスするということであった。白熱したゲームになっては来たが、キャッチバレーゆえゲームの途中で流れが止まってしまうことがしばしば見られた。そこで、スムーズな流れをめざしたのであった。
ノートより 「すばやくセッターにパスを渡すようにした。」「早いプレーをめざし、みんなで声をかけ合った。」
10時間目
今までの技能を生かし、交流試合を行った。得点板を持ってきて、互いに点を加えながらゲームを行ったチームもあった。生徒は活発に動き、スパイクやブロックが決まる度に歓声が上がっていた。
ノートより 「最後にとてもいいチームにまとまった。」「今までやってきたプレイをしっかり思い出してやった。」「もし今度やる時は、サーブとブロックを一生懸命する。」
@
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
図1-1 授業の様子(このビデオの場面は4時間目)
@Aアンダーハンドサーブが打ち込まれる。 Bキャッチしたボールをセッターに渡す。Cセッターは一度キャッチした後、トスを上げる。 DE大きなトスをアタッカーがスパイクを打つ。 Fレシブしたボールがセッターに渡る。 G相手のスパイクに対しブロックが二枚跳ぶ。 H再びキャッチしたボールをセッターがトスを上げる。 Iネットに近いトスを何とかスパイクするが。 JK一枚のブロックにシャットアウトされる。
※ 現在、バドミントンのコートに高さの変えられる支柱が使えるようになったため、以上の指導計画を少し進歩させ、5人制(前衛はセッターにアタッカー2人、センターとレフト)で行っている。
オ 2年生の学習指導計画とその実施
@ 単元名 バレーボール(キャッチバレー)
A 単元でつけたい力
(1) 戦略性豊かなバレーボールの特性に触れ、基礎的技能の獲得・戦術の理解に意欲を持ち、バレーボールを楽しむことができる。(関心・意欲)
(2) 各自の役割を果たすことでチームに貢献し、それぞれの役割の中で個性を発揮し、チームと各自の努力の方向を意識することができる。(思考・判断)
(3) 多彩な攻撃を行うための基礎的技能を習熟し、それぞれの役割に基づいた動き方を理解し、確率の高い守備隊形を基本にしたチームとしての攻め方・守り方ができる。(技能の向上)
(4) ネットやボールを安全に配置することや準備運動を十分に行うとともに、運動のしかたで危険のない行い方を理解し、安全に気をつけて運動することができる。(安全)
B 教材研究
(1) 3人組のローテーション
前衛での役割を考えたとき、右からライトプレイヤー(普通はセッターになる)・センタープレイヤー(左利きのアタッカーがライトにいるときはここでセッターをやる)・レフトプレイヤーの順におく。二年生ではそれぞれの役割を果たすことを強調するため、この3人の並び方は崩さない。常にこのコンビでプレイする。その結果、ローテーションは時計回りに回らない。単に、前後で交代する。サーブ権をとったらそのまま後ろに下がり、その3人が交代しながらサーブを打つ。そして次のサーブ権で3人ともが前衛にあがっていく。
C 単元計画
1 ねらい
ライト・センター・レフトの役割を生かし、速攻を含めた攻撃的な6人制バレー
2 2年生の指導計画(10時間扱い)
2年生の指導計画は表1-2の通りである。初めて「らしさ学習」で学んだ3年生女子も2年生男子と同じプログラムで学習した。

表1-2 2年生の指導計画
3 授業展開
1時間目 (教室でのオリエンテーション)
2年生のバレーボールは6人制で行うため、まず、そのゲームのしかたを確認した。さらに、この6人制のバレーボールは3人組でローテーション(3人まとめて、前衛・後衛で交代する)することやセッター・センター・レフトの役割を大切にしているためその説明に時間を割いた。そして後半は、グルーピングを行い、それぞれのチームごとに役割を分担(セッター・センター・レフトまたはライト・セッター・レフト)させた。
2時間目
改めてゲームのしかたを確認した後、6人制ゲームをやってみた。ルールは1年生で学習したものを使い、1年生の復習の意味も兼ねていた。生徒は4人制から6人制に人数が増えたにもかかわらず、攻撃は2人のアタッカーを機能的に使えず、それぞれ単独でスパイクを打っていた。
ノートより 男「バレーボールのゲームのしかたを確認した。」「いっぱいスパイクを打ちたい。」
女「ブロックとアタックがどういうものなのかがよく分かった。もっと練習して早く両方できるようになりたい。」「自分がどういうことをするべきなのか、みんなが分かれ ばもっと楽しくなると思う。」
3時間目
サーブレシーブ隊形をWの形にすることを確認し、ゲームを通しその徹底を図った。コートは通常より狭いバドミントンのものを使ったため、ぽとりと落ちることはなかった。レシーブはほとんどキャッチだった。前回初めてスパイクを習った女子のクラスもやっとスパイクがあたるようになってきたが、ブロックはまだタイミングが合わず、やっと触る程度である。
ノートより 男「サーブを受けるときのレシーブの形は、セッターが前に出て、他の人でWの形を作る。」
女「もう少しちゃんとWの形がうまくできるようになるようにしたい。」「私はブロックがうまくできないから、もっとがんばる。いつもかすってばかりだから、しっかり止 める。」
4時間目
速攻(Aクイック)を取り入れた。セッターの直上パスとセンターの走り込みのタイミングを指導し、ゲームの中で積極的にAクイックを使わせ、練習とさせた。
ノートより 男「セッターにボールがわたる前に走りだし、セッターはちょんとボールをおく。レフトはつられて走らない。」「Aクイックとオープンを使い分ける。」
女「私はセンターなので早く速攻ができるようになりたい。今日は全然できなかった。」 「なかなかむずかしい。ブロックが全部来ちゃうこともあった。」「けっこうできて嬉 しかった。おとりになってエースが打つのもうまくできました。よかった。」
5時間目
後衛によるおとりのプレイも可とした。と同時に前衛に残りブロックに参加することはアウトオブポジションであることを指導した。このことでゲームは大変賑やかになった。反面、守備の意識がおろそかになったので次時にその修正をした。一方、女子のクラスは別メニューとなった。男子のように転がってまでボールを拾う意識がないので、攻撃するためにはまず拾いまくることとの指導に変えた。
ノートより 男「おとりのプレイを成功させるには、トスの違いをはっきりさせ、しっかり声を出す。」「勝手なプレイになりやすいので、チームワークをよくする。」
女「ボールを拾わないと攻撃できない。ボールが低いところに来たら、転がっても取るようにしたい。」「もっとボールを拾ってゲームを続かせたい。拾おうとするととても 楽しい。」「とにかく拾いまくる。ネットになったボールも気合いで取る。ころんでも いいから取る。」
6時間目
相手のアタックに対するレシーブ隊形を男子は1年に引き続き再確認し、女子は確率をもとに指導した。特にレフトからの攻撃はブロックを2枚にし、残りの4人でレシーブする。この結果、レフトプレイヤーの守備の意識が向上し、動きの量が増えた。しかし、女子はキャッチバレーが初めてで慣れないせいか、流れの中でよいポジションを取るという意識は難しかったようである。
ノートより 男「自分の役割をちゃんとやること。」「チームの守り方」(ノートには図が書かれ、それぞれのポジションの動きが矢印で書かれていた。)
女「アタックに対するレシーブは、その時のポジションを考えながら守りにつく。」
7時間目
男子にはブロックカバーを再確認し、女子には確率をもとに後衛の動きを説明した。男子は1年ですでに学習しているため、言葉だけで十分であった。そして、次のプレーへの連携を意識していた。
ノートより 男「取ったボールを早く回し、相手にブロックさせない。」
女「いつもより動いた気がする。」「後ろの人はボールを拾うことしかしないと思って いたけど、すごく運動するのでびっくりした。まだ、ブロックカバーがうまくできない から、できるように練習したい。」
8・9・10時間目
前半の15分間をチーム練習とし、その後、交流試合を行った。各チームコンビネーションプレーの練習に熱心だった。また、女子は創造性が豊かで、独自の攻撃方法を考えていた。B・Cクイックはおろか、教えていない時間差攻撃まで編み出した。彼女らはそれに独特の名前をつけ、ゲームにも使えるようになった。
ノートより 男「タイミングのコミュニケーションが大切だ。まず、ブロックをしっかりしよう。」「チームワークだ。自分のポジションをきちんとやって、もっとレシーブをしっかりしよう。そして、みんなでゲームを楽しもう。」
女「新技『四季もどき』(時間差攻撃)を完璧にマスターする。初めて点数ありの試合 をやって、ちょ〜楽しかった。」「みんな、アタックもブロックもうまくなっているの で、点を入れるのがすごく大変。でも、それ以上に、入ったときが嬉しいです。あと1 時間だけど、もっとうまくなれるように頑張ります。」「大した”技”はできなくても、 シンプルな速攻が完璧にできるようになれば、いいと思う。だから速攻がんばる。」「ラ ストのバレーは本当にバレーっぽくできて、楽しかった。ブロック楽しかった。」
@
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
図1-2 授業の様子(このビデオの場面は5時間目)
@相手からのボールを前衛のセンターがキャッチ。 Aセッターにパスすると同時に走りはじめる BCセッターはすぐトスの動作に入る。 D〜GセンターはAクイックのタイミングで勢いよく走り込むと相手ブロッカーは完全にセンターをマーク、しかしトスはレフトへ。 H〜Kレフトはオープントスをスパイクするが、センターの走り込みにつられタイミングが早すぎた。その場ジャンプとなり、スパイクの威力は半減した。
※ この時点では、まだブロックカバーの指導はしていない。そのままネット近くに落とされる。
カ 3年生の学習指導計画とその実施
@ 単元名 バレーボール(キャッチバレー)
A 単元でつけたい力
(1) 戦略性豊かなバレーボールの特性に触れ、基礎的技能の獲得・戦術の理解に意欲を持ち、バレーボールを楽しむことができる。(関心・意欲)
(2) 各自の役割を果たすことでチームに貢献し、それぞれの役割の中で個性を発揮し、チームと各自の努力の方向を意識することができる。(思考・判断)
(3) 多彩な攻撃を行うための基礎的技能を習熟し、それぞれの役割に基づいた動き方を理解し、確率の高い守備隊形を基本にしたチームとしての攻め方・守り方ができる。(技 能の向上)
(4) ネットやボールを安全に配置することや準備運動を十分に行うとともに、運動のしかたで危険のない行い方を理解し、安全に気をつけて運動することができる。(安全)
B 教材研究
(1) 赤・青・黄
交通信号と同じようにライトプレイヤーに赤、センタープレイヤーに青、レフトプレイヤーに黄色のゼッケンをつけさせた。これはサーブを打ったあとに、また、サーブレシーブ後相手コートにボールが返ったあとすぐに、前・後衛ともに右から赤・青・黄の順にポジションを移動させる。6人制バレーボールでは次の各自の攻撃がしやすいよう役割ごとのポジションにすぐに移動させた。当たり前のことではあるが、この動きは意外に難しい。二年生で各ポジションの役割はよく分かっているので、その動きだけを最初に指導する。この三色のゼッケンがあれば、生徒同士互いに「赤・青・黄」とかけ声をかけ合い、また、外からも「赤・青・黄」とポジションの間違いを指導しやすい。三色のゼッケンはとても便利である。
(2) ワンセッター
基本的にセッターはワンセッターである。サーブレシーブのとき、セッターが後衛の場合は、最初その動きが難しい。移動セッターである。前衛のときだけでセッターを行うとアタッカーは二枚となり、攻撃が単調になる。多彩な攻撃を楽しむため、ワンセッターはキーとなる。気の利く生徒が集まるとツーセッターも考えていた。常に三枚で攻撃しようとする。このセッターの動きに合わせてアウトオブポジションをも指導した。後衛のセッターがトスを上げたあと、後衛ライトのポジションに戻らず前衛でうろうろしていると相手の攻撃に対してブロックに跳んでしまうことがある。最初はよくあるパターンではある。よって、セッターの動きを丁寧に指導することで全体の動きがスムーズになり、多彩な攻撃へとつながった。
C 単元計画
1 ねらい
4回制による多彩な攻撃と防御のある6人制バレー
2 3年生の指導計画(10時間扱い)
3年生の指導計画は表1-3の通りである。
表1-3 3年生の指導計画
3 授業展開
1時間目 ( 教室でのオリエンテーション)
教室で以下の点を確認し、グルーピングを行い、それぞれの役割を決めた。
・回数は4回
・ライト・センター・レフトのそれぞれの役割の特徴を再確認する。
・ゼッケンを3色用意し、例えばライト赤・センター青・レフト黄とし、サーブが打た れた瞬間に味方は赤・青・黄の順にポジションを整える。
2時間目
ゲームのしかたを確認した後、6人制ゲームをやってみた。ポジションの移動は、サーブ権のあるときは簡単である。すぐに赤・青・黄の順にポジションを変えればよい。しかし、サーブレシーブ後、ボールがネットを越えた瞬間に移動することはとても難しい。さらに、セッターが後衛に下がったときの動きにはかなりの時間がかかる。最初の練習では動き方の指導だけで終わってしまった。
3時間目
前時と同様、サーブレシーブ後のそれぞれのポジションへの移動をスムーズに行う指導を徹底した。セッターの動きも全体で確認(特に、後衛からの移動セッターについて)した。
ノートより 「一人一人自分の役目をしっかり覚える。」「セッターの動きをしっかり 理解する。」
4時間目
セッターを含め、自分のポジションで自分の仕事をすることを確認した。(自分のポジションの仕事をはっきりさせることで、プレイが楽になる。特に、運動能力の高い生徒は気が多くいろいろなポジションをしたがる。この時点でメンバーの特徴を生かし、役割の再確認を行い、以後変更はしないよう指導した。)
ノートより 「セッターよりセンターのレシーブの方がうまくできるので、センターに変わることにした。」
5時間目
ここからチームの戦術を強化した。まず、アタックに対するレシーブ隊形(ブロック2枚、前衛の一人は下がる。死角を意識したポジション。)とサーブレシーブ(Wの形)の隊形の再確認を行った。
ノートより 「ブロックをしない人がいる。言われないと、赤青黄になれない人がいる。」
「うまくセッターにボールを渡したい。」
6時間目
回数が4回であることを強調した。チャンスボールの意識、攻撃態勢への切り替えを意図的におこなわせるため、必要となる。そして、チャンスボールからは速攻を基本とした戦術で攻めていく。
ノートより 「速攻をカッコよく決めたい。」
7時間目
ブロックカバーの再確認とメンバーの持ち味を生かした攻撃を工夫させた。(左利きのライト攻撃や速攻・バックアタックなど。)
ノートより 「Cクイックをやってみたい。」「サインプレーをしたい。」
8・9・10時間目
前半の15分間をチーム練習とし、その後、交流試合を行った。各チームコンビネーションプレーの練習に熱心だった。
ノートより 「昨日テレビで日本vsアメリカを見ていたら、ブロックカバーやAクイックをやっていて、そのことを思い出してプレイしたら、ブロックカバーができた。滑り込みのレシーブを何回もやった。バレーはとても楽しいものだ。」
2 器械運動の学習指導計画とその実施
ア 今までの学習指導の見直し
従来の器械運動の指導(主に小学校)では、ねらい1で今持っている力を楽しむ段階が捉えられ、そこからねらい2としてさらに発展した動き方を楽しむという流れが一般的であった。また、マット運動・跳び箱運動・鉄棒などのそれぞれの単元のなかでやさしい技からより高度な技へと系統的に発展させる流れであった。しかし、ねらい1ですべての子どもたちが本当に運動を楽しめていたかどうかは疑問が残る。この段階で運動を楽しむことができないと、ねらい2には発展しない。さらに、内発的動機づけに支えられた主体的な学習を保証することもできない。
子どもたちは自分が持っている運動財を駆使して、そこから変化発展させて新しい運動を実現させようとする。しかし、今できる技をやってみただけで本当に楽しいと感じることができるのだろうか。また、持っている運動財が乏しい生徒は他人に比べて自分の技能が低いことを再確認させられるだけの苦痛の時間になってはいないだろうか。そこで、器械運動が本来持っている楽しさ、すなわち非日常的な未体験な運動空間を味わうことにより、内発的動機づけを刺激し、運動の楽しさを保証するとともに、そこから主体的な学習に発展させる学習過程を提案する。
イ 教材観
器械運動の一般的特性についてはここでは省略する。マット運動も跳び箱運動も、回転系に対しては逆さ感覚、逆さ体験がキーポイントとなる。日常の生活のなかで、逆さになることはない。また、回転することもない。非日常的な運動である。非日常的な運動を丸ごと楽しむ、非日常的な運動を初歩の段階から楽しむ、それがこの教材でのねらいとなる。では、この非日常的体験をどう楽しませるのか。普段行わない運動を行うには恐怖感が伴う。失敗したときのことを考えると怖さとともに痛さが想像できる。うまくできない生徒に対し、補助をしてやるといってもなかなか行動を起こさないことがある。それは、本当に大丈夫なのか、本当に痛くないのかと疑心暗鬼になっているからであろう。そこで、そんな心配をぬぐい去るような場を設定してやることが、この教材では第一に行わなければならないことである。そして、そんな環境のもと、生徒がワクワクしながら非日常的な体験ができるような計画を立てねばならないと考える。
ウ 「カッコイイ」プレイのイメージ
中学生のイメージする「カッコイイ」プレイは体操競技の選手のそれではない。体操競技の選手も時々テレビのCMに出てくるが、彼らの演技ははるか彼方の、手の届きそうにない場所にある。もっと現実的で、中学生がよく見るテレビに出てくる場面が、歌番組でのバク転である。ジャニーズ系の人気タレントが舞台でよく披露している。歌を歌うのと同じ価値を持って、その躍動的な振り付けで観集の注目を集めている。また、プロ野球ではダイエーの秋山が劇的なホームランの後、ホームベース上でバク転を披露する。サッカーでは城彰二。得点シーンの後のパフォーマンスで前方宙返りを見せる。中学生はこんな場面を「カッコイイ」印象として焼き付けている。
エ 1年生の学習指導計画とその実施
@ 単元名 器械運動(前方回転系運動)
A 単元でつけたい力
(1) 未体験の運動空間を味わうことによって新たな技能獲得の意欲を持ち、器械運動を楽しむことができる。(関心・意欲)
(2) 自分の個性を生かした技能(連続技)を工夫でき、さらに動きを高めるためのめあてを持ち、達成の見通しが持てる。(思考・判断)
(3) よりダイナミックな前方回転系の運動空間を楽しみ、自分にあった場で技能やできばえを高めたり、新しい回転運動に挑戦し、技能を獲得したりすることができる。(技能 の向上)
(4) マットや器具を安全に配置することや準備運動を十分に行うとともに、運動のしかたで危険のない行い方を理解し、安全に気をつけて運動することができる。(安全)
B 教材研究
(1) ステージからの回転下り
できなかった運動ができるようになる達成の喜びは、器械運動の学習を意欲的にさせる重要なモチベーションである。しかし、それに至までにはなかなかできるようにならない苦しみも同時に乗り越えなければならない。ここでつまずいたり、できるような気がしないまま時間が過ぎ、器械運動が嫌いになる子も少なくない。そこで本単元では、ちょっと怖いが、誰にでもできそうで楽しく取り組め、それでいてこれから学習しようとする運動の基礎的要素も含んでいるような導入の運動を考えた。それが、落差を利用したステージからの回転下りである。この運動の特徴は、(a)非日常的な運動である。(b)逆位の体勢や空間での回転など、これから学習しようとする運動の基本的要素を含んでいる。(c)着地点が見えにくいので恐怖感がある。それゆえにおもしろさもある。
最初は回転して背中から落ちるだけでも楽しく取り組める。慣れるに従い、大きな落差で挑戦したり、足で着地したり、跳び前転下り、倒立前転下りなど、様々な工夫で飛び下りる姿も見られるだろう。教師は、生徒の安全に気を配り、無理な挑戦や大きすぎる助走がないか注意する必要がある。
(2) 倒立前転
自由な発想で行うステージからの回転下り、さらに続けてマット運動、最後に跳び箱でしめくくる発表会だが、その中に規定演技として今回は倒立前転を位置づけた。その意味は、まずステージからの回転下りで滞空時間の長い回転を経験する。そこから子どもたちはマット運動や跳び箱運動の回転技に思いをはせ、彼らのねらいを発展させていく。回転技の特徴は逆さ感覚・回転力・順次接触の技術などが重要な要素となる。そこで倒立前転を考えると、まず倒立で静止し、回転力を付けて着地に向かい、腕を曲げて体を下ろし着地する。この三つに要素の一つひとつを短い時間の間に確実に行うことでこの技が完成する。子どもたちが感じたそれらの要素を具現するために、さらに今後、回転系の技をますます発展させるために倒立前転はよき要素を十分に備えた特徴的な技と考え、ここで全員に課す課題として取り上げた。
(3) まとまりとしての前方回転系運動
マット運動・跳び箱運動ともに固有のおもしろさ・特性がある。同時に回転系・切り返し系といった共通の運動系も認められる。中でも回転系は子どもたちにとって比較的容易に習得できる運動であり、発展させるほどダイナミックに進歩させやすい。本単元で取り扱う主たる教材は前方回転系であり、マット運動・跳び箱運動という既成の概念にとらわれず、前方回転系運動というまとまりにひたり、楽しむことにより三年間の学習の導入とする。ステージからの回転下りは、回転系運動の後半部(着手→第2空中局面→着地)の動きの感じをつかませるための予備運動として有効である。さらに落差を利用して回転の空間を確保することで回転が容易に楽しめるという点で固有の特性を持つ。ここで回転の感じがつかめると、フラットなマット上や跳び箱上でも回転運動を実現させようとする意欲がわくだろう。子どもたちはそれぞれの個性や関心、能力に応じて回転下り、マット運動、跳び箱運動のどこに重点をおいて楽しむのかを選択することになる。教師も、子どもの特質を見抜き、重点選択や技術の獲得を援助する必要がある。この重点選択は、将来の種目選択にもつながるであろう。
C 1年生の指導計画(10時間扱い)
1年生の指導計画は表1-4の通りである。

表1-4 1年生の指導計画
D 授業展開
1時間目
教室でのオリエンテーション。授業の内容・発表会に向けての練習計画・約束事などを説明した。
2時間目
ステージからの回転下りへつなげるため、ウレタンマットへ飛び下りることからはじめた。生徒は高く跳んだり、空中でポーズを取ったりと楽しみながら着地の感覚を養った。後半はできる生徒から回転下りに挑戦したが、ほとんどが背中からの着地だった。
ノートより 「段の上から前転をやってみようと思い、段の上に立つと恐くなり、うし ろの方へいってしまいました。けれどやってみると楽しいので、二度三度やっていると 最初の授業が終わってしまいました。」「ウレタンマットに跳び落ちた。こんなことは 初めてだった。楽しかった。」
3時間目
ステージから空中回転・倒立からの回転に挑戦しているが、なかなか足の裏で着地できないでいた。後半は倒立前転を学習し、倒立の練習を主に行った。壁倒立・補助倒立等、気の合う仲間同士仲良く練習していた。
ノートより 「ウレタンマットに落ちるのが楽しかった。」
4時間目
マット運動も加えたが、練習は相変わらずステージからの回転下りが多かった。最初ウレタンマットめがけて回転に入っていたので、回転の途中で即着地となっていたが、徐々に高く上がりながら、尚かつ、回転力を高める工夫をし始めた。今回、前転系としたが、マット運動では後転の指導をも合わせて行った。
ノートより 「ウレタンマットで前宙ができて、それは、すごい満足しています。」
5時間目
跳び箱運動も加えた。意外と台上前転を恐がる生徒が多かった。そこでマットでの前転と跳び箱を低くすることで解決していった。一方、元気よく前方倒立回転とびを行う生徒もいた。安全のため、指導者の補助が必ずついた。
ノートより 「倒立前転の練習をしました。壁に足をくっつけてやっていました。小学 校の時もやっていたのでできると思いましたが、全然できなかったので跳び箱に行きま した。」「前方倒立回転跳びがはじめはなかなかできなくて、先生に補助をつけてもら ってやっとできるようになった。そして自分一人でやってもできるようになった。とて も頼もしく感じた。」
6時間目
徐々に総合的な練習を促すが、生徒は部分的な練習に終始していた。
ノートより 「跳び箱の上で前転できなかったのが、今ではその恐怖心もなくなり、前転ができるようになった。」
7時間目
この頃になるとできる生徒とできない生徒の差がはっきりしてきた。できないものでは圧倒的に倒立が多い。台上前転の恐怖心がまだ取れない生徒も若干いた。指導者は徹底して倒立の指導にあたった。
ノートより 「ハンドスプリングができるようになってよかったです。あとは、台上前 転ができたことです。」
8時間目
倒立もかなりできるようになったが、倒立前転となるとまだまだ難しい。倒立から回転へ、同時にからだを下ろしてやることがうまくできない。ぺちゃんとつぶれる生徒もいた。
ノートより 「倒立ができたときはすごくうれしかった。でも、ソリや丸めるのが難しかった。」
9時間目
生徒は各自の課題解決に一生懸命で、演技構成ができていなかった。次時の発表会のために慌てて考えている生徒もいた。
ノートより 「発表会では多少失敗しても最後までがんばろうと思う。」
10時間目
前半の練習後、発表会に臨んだ。ビデオの前で緊張しながらも、それぞれの持ち味を発揮して演技していた。
ノートより 「最後に発表会をやりました。発表会のとき緊張しました。でも、ちゃんとできてよかったです。」
@
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
N
O
図1-3 発表会から
このビデオからの場面は、
10時間目の「まとめの発表会」である。
@演技開始 A〜D今回はステージではなく、畳を積み上げた上からの回転下り、「前方宙返り」 EF「倒立前転」 G〜I自由演技「前方倒立回転とび」 J移動 K〜N「前方倒立回転とび」 Oフィニッシュ
※ この器械運動(前方回転系運動)は長野県学校体育研究会の合宿研究会で下記の方々との共同研究を実践したものである。
月岡英明・西牧健史・小山健二・上野忠明・日下嘉光の各氏
オ 2年生の学習指導計画とその実施
2年生では一人ひとりの能力に応じ、できるだけたくさんの技に挑戦し、できるようにすることを目的とする。
授業はカードを利用し、各自の進み具合によってそれぞれ目標を立て、個別に練習する。体育館にはマットや跳び箱がいくつも並び、各自がそれぞれ利用したいところへいって練習する。グループは特に作らないが、自然発生的に同じ種目を練習する生徒や仲良しの生徒が集まってきた。生徒は互いに教え合い、また、教師にアドバイスを求めてねらいを達成しようとしていた。また、ポイントとなる技は、毎時間1・2種目を一斉指導の形で説明し、未経験の技への意欲を高めた。
毎時間ごとの単元計画はここでは省略する。
カ 3年生の学習指導計画とその実施
@ 単元名 器械運動(競技会形式)
A 単元でつけたい力
(1) 未体験の運動空間を味わうことによって新たな技能獲得の意欲を持つとともに、競技会への参加・運営等のしかたを理解することで体操競技としての器械運動全体を楽しむことができる。(関心・意欲)
(2) 自分の個性を生かした技能(連続技)を工夫でき、さらに動きを高めるためのめあてを持ち、達成の見通しが持てる。(思考・判断)
(3) 新しい技に挑戦し、その技能を獲得するとともに、競技会形式の発表の場で今までの技をより見栄えのする演技に高めることができる。(技能の向上)
(4) マットや器具を安全に配置することや準備運動を十分に行うとともに、運動のしかたで危険のない行い方を理解し、安全に気をつけて運動することができる。(安全)
B 教材研究
(1) 競技会形式
器械運動は克服型のスポーツといわれるが、ここでは単にできたから納得する演技ができたへ、さらに、競技会で他の人と競り合う楽しさまでをも味わわせようとした。同時に大会の企画運営からルールづくり、参加の手続き等、できたら報道にいたるまで丸ごと経験することでスポーツに付随する様々な楽しみ方に目を向けさせていた。まだ実際は、それらの一部に触れるに過ぎないが、将来すべてを生徒の手で実現できる形に整えられていくことだろう。
競技会では、器械運動の苦手な生徒にも同じ土俵で戦える配慮がなされていた。それは、やさしい技を完璧に演技することで難しい技の失敗を上まえる得点になっていたことである。中学生ではすでに技能に大きな差がついている。3年生の女子はなおさらである。やる気を起こさせる配慮・企画が必要である。
C 単元計画
これは生徒に示した器械運動の練習計画である。
練習計画
1時間 オリエンテーション
2時間 とび箱運動・マット運動(色々な種目をやってみて、演技種目を絞り込む。)
3時間 とび箱運動・マット運動(色々な種目をやってみて、演技種目を絞り込む。)
演技種目決定・提出 (提出遅れは1日につき1点減点)
4時間 発表会に向けての練習(一応決めた演技種目の練習)
5時間 発表会に向けての練習(一応決めた演技種目の練習)
演技種目変更・提出 (提出遅れは変更を認めない)
6時間 発表会に向けての練習(提出した演技種目の練習)
7時間 発表会に向けての練習(提出した演技種目の練習)
8時間 マット運動発表会
9時間 とび箱運動発表会
とび箱運動
下記の種目から1種目を選ぶ。持ち点プラス演技点で得点を出す。
難易度A 台上前転・腕立て閉脚とび 持ち点 2点
難易度B あおむけとび・屈身とび 持ち点 4点
難易度C 腕立て水平開脚とび・前方倒立回転とび 持ち点 6点
演技点 完璧にできた 3点
普通にできた 2点
やっとできた 1点
マット運動
バランス技から1種目、下記の種目から4種目を選び、連続して演技する。
持ち点+演技点+印象点で得点を出す。
バランス技 V字バランス・Y字バランス・水平バランス・他 持ち点 1点
難易度A 前転・後転・開脚前転・開脚後転 持ち点 1点
難易度B 伸しつ前転・伸しつ後転・側方倒立回転
とび込み前転・倒立前転 持ち点 2点
難易度C 前方倒立回転とび・後転倒立・バク転
前方宙返り 持ち点 3点
演技点 完璧にできた 2点 やっとできた 1点
印象点 堂々と見栄えよく演技できた 3点
無難にまとめたが、アピール度は低い 2点
自信ない演技で見栄えがしない 1点
※演技点で0点(できない)を取ると、持ち点も0点になる。(とび箱・マット運動とも)
演技種目提出用紙は図1-4の通りである。

図1-4 演技種目提出用紙
D 授業展開(3年女子は時間の関係で、マット運動のみの7時間計画)
1時間目
教室でのオリエンテーション。
2時間目
とび箱運動とマット運動を色々やってみて、演技種目を絞り込むことをねらいとしている。そのため、練習は生徒の意思に任せてある。生徒は今までの復習をも兼ね、それぞれ仲間を見つけてやってみたい技を練習していた。教師は個々に見て回り、能力の高い生徒にはバク転や前宙を指導したり、苦手な生徒には後転のコツなど、基本的な指導で生徒の意欲を高めていた。しかし、女子のクラスでは、まだその気になれず、隅の方でおしゃべりしている生徒も見受けられた。
ノートより 男「本日の授業では、マット運動と跳び箱運動が思った以上に難しいとい うことです。また、それだけではなく、伸膝前転のコツを教えてもらって、少しずつで きるようになってきているとと思いました。」「前宙をマスターして、バク転をしてみたい。」
女「飛び込み前転を高く遠くに跳べるようにすること。あと、倒立前転ができるようになりたいです。もう一つ、足を伸ばして前転するやつも。」
3時間目
あおむけ跳びや水平跳び、後転倒立やバランス技などの説明と示範で、生徒は新しい技への挑戦を開始した。この授業のあと、取りあえず演技種目を提出せねばならぬため、可能性のある技に積極的に取り組んでいた。女子のクラスも自由な雰囲気が合ってきたのか、賑やかではあるが、意欲的に練習し始めた。
ノートより 男「バク転をするとき、立った状態からブリッジをして、後方への恐怖心を克服する。」
女「ひたすら種目練習をする。」「前宙・バク転は少し難しかった。たくさん練習してできるようになりたい。」
4時間目
一応、演技種目は提出したが、得点の高い、まだ未完成な技に意欲的に挑戦を繰り返していた。この時間あたりになると、自然と練習グループができ、和気あいあい、仲良く練習していた。
ノートより 男「とびこみ前転でとび込むとき、グッと押さえたあと、引くということ を知りました。」
女「一番の目標は前宙をできるようにすることです。倒立前転と一緒に練習していきたい。」
5時間目
演技種目の最終決定に向け、最後の挑戦をしていた。
ノートより 男「開脚後転が先生のアドバイスでかなりできるようになりました。」「前 宙ができるように高さを利用して練習していました。今日は、それがマットの上ででき た。もっと高く跳べば完璧です。」
女「倒立前転。これ恐いね、少しだけ。」
6時間目
演技種目が決定したので、その技のみを練習すればよいのだが、合間を見ながらまだ他の技に挑戦していた。
ノートより 男「本日の授業では、マット運動の技を完成へと導く見通しが立ちました。また、倒立前転を完成させるために、初心に戻ってやったら、何か得るものがありました。しかし、まだできないので、アドバイスをお願いします。」
7時間目
発表会前の最後の練習となった。個々の技の練習からマットをつなぎ、全体を通しての練習となった。生徒は練習仲間を中心にグループを作り、それぞれ独自の大会を企画した。
ノートより 男「次は競技会なので、いい演技をしたいと思う。いい競技会になるといいと思う。」
女「倒立前転を失敗しないようにがんばろう。きれいな演技ができるといいなあ。」「始まる前と終わったあとのポーズをしっかり取る。うろたえてはいけない」
8時間目
競技会第1日目はマット運動である。体育係を中心に司会進行やビデオ撮影などを分担し、大会を運営した。教師は審判員となった。緊張しながらの演技とその後の得点に一喜一憂しながら、グループごとの大会は盛り上がった。
ノートより 男「プレッシャーの中では何も考えられなくなって、普段やっていること がそのまま出る。普段の練習が大切だということを実感した。」「本番の緊張を知った。 『マットなんて緊張しないよ。』と思っていました。しかし、緊張して、順番を間違え てしまいました。」
女「本番ではうまくいかないものもあった。でも、競技会は楽しめた。これで終わりにしないで、また練習しようと思う。」
9時間目
第2日目のとび箱運動の競技会により、総合と種目別の順位が決まる。記録表に記入された得点を互いに眺め、健闘をたたえ合っていた。次の時間、ビデオを再生し、全体を振り返った。
ノートより 男「完璧に演技するということはとても難しく、器械運動の壁を知り、いい経験になった。この8時間、とても楽しかった。」「競技会ではいろいろな困惑や緊 張があったけど、今思うと、それがとてもいい経験となったように僕は思いました。よい経験をありがとうございます。」
@
A
B
C
D
E
F
G
H
I
図1-5 授業の様子
(マット運動の競技会)
@司会進行役が紹介する A演技開始 BC「飛び込み前転」 DE「伸膝後転」 F「倒立前転」 GH「前方倒立回転とび」 I「Y字バランス」
@
A
B
C
D
E
F
G
H
図1-6 授業の様子(跳び箱運動の競技会)
@司会進行役の紹介 A演技開始 B助走に入る C〜H「前方倒立回転とび」 Hフィニッシュ
3 陸上競技の学習指導計画とその実施
ア 今までの学習指導の見直し
陸上競技の特性は競争と達成である。互いに競い合い、レースで勝敗を楽しむ。また、各自の目標とした設定記録に挑戦し、その更新をねらう。しかし、「今、持っている力」で本当にレースを楽しんでいるのだろうか。すべての子どもたちが楽しめるはずがない。勝敗は走る前からすでに決まっている。足の速いのは誰々さんと分かっている。カイヨワの言う、「未確定の活動。すなわち、ゲーム展開が決定されていたり、先に結果が分かっていたりしてはならない。創意の必要があるのだから、ある種の自由がかならず遊戯者の側に残されていなくてはならない。」3)、つまりプレイの本質が失われているのである。そこで現在、様々な工夫が行われている。ハンディキャップレースなどはその代表であるが、勝敗は楽しめてもやはりプライドが傷つく。「今、持っている力」で楽しめるのはほんのわずかな子どもだけであるのが現状である。
また、ねらい2として「さらに発展」させようとしたとき、短い授業時間内で本当に記録の向上が図れるのだろうか。継続的にかなり長い時間をかけてトレーニングしなければ、当初のねらいは達成できないであろう。
中学校では用具の準備・片づけの簡略化をねらい、複数の学年にまたがって同じ種目を同じ時期に行うことが多い。ハードルの授業では、それぞれの走力に合わせてインターバルの種類を変え、斜めにハードルを置いておいた。次の授業の先生が、「そのままにしておいてください。」というのでそのままにしておくと、いつの間にかハードルはまっすぐに、同じインターバルに並べ替えられていた。陸上競技そのままに。競技としてのレースは同じ条件で競わねばならない。そんなことは当然承知している。しかし、本当に同じ条件なのだろうか。なかなか跳べない子は何度も何度も跳んでやっとできるようになる。ハードル走とはできないものをできるようにする、克服をねらう種目となる。それでもできないままで終わってしまう子の方が多い。
このように考えると、苦手な子にとって、また、足の遅い子にとっては主体的な学習に高めることははなはだ難しい状況にある。
陸上競技の指導は様々な工夫をしながらも、多くの体育教師が悩みながら指導を続けている。いつまでも同じ疑問を残しながら。
イ 教材観
陸上競技の一般的特性についてはここでは省略する。すべてのスポーツは科学である。とりわけこの陸上競技は科学性が強い。そこで陸上競技の授業では科学を追究し、科学的な考え方で各自の記録更新をねらっていく進め方となる。短い授業時間でも必ず効果の上がるもの、記録更新の可能な形を選び指導していく。例えば走り幅跳びでは、様々な部分の技術指導は軽く触れるだけにし、着地の技術一本に絞る。着地の技術で20cm伸ばそうと目標を立てさせる。これなど5時間もかからずに全員がかなりの記録の上昇を示す。そして陸上競技では、科学をベースにした問題の解決のしかたを学習する場となる。がむしゃらなトレーニングではなく、理詰めな、効果的なトレーニングの方法を学び、一人ひとりが自分を高めていく方法、方向を学ばせていく。
授業としての陸上競技では、すべての子に競争の喜びや各自が設定した記録を達成することの楽しみを味わわせてやりたい。そう考えると、多様な子がたくさんいる中でどうしても能力の劣る子、足の遅い子に焦点が合ってくる。極端な話、足の速い子は運動会で活躍すればよい。短距離でスタートやフィニッシュの技術を教えた後、わずか10mの短距離走のレースを行っても、2・3度やると勝つ子どもは必ず決まってしまう。
そこで考え方は二つとなる。何らかの条件の下で平等なレースを行うことと完全に記録相手のレースにすることである。そして、それらが可能な種目だけを選び、それらを中心に指導することだと考えるようになった。例えば平等な種目として、リレーやハードル走が考えられる。リレーはチームの合計タイムがすべて同じになるようにチームを構成する。チームとして条件は同じになり、レースに勝ったところがよき学習をした結果となる。さらに、運動会の時期を利用して全セパレート、例えば、一人50m×4人の200mリレーのレースを行えばバトンパスの学習は最高のものになる。また、ハードル走では、各自のスピードに合わせたインターバルを選ばせればハードリングの技術の勝負ができる。これは後で詳しく説明する。
また、設定記録の達成や自己新記録をねらった達成型のレースでは、純粋には独走の形、または同じような力の生徒二人で走る。長距離走では時間走にすれば、全員が同時にスタートし、全員が同時に終了となる。これらも後で説明する。
ウ 「カッコイイ」プレイのイメージ
陸上競技の一流選手のフォームはきれいで美しい。特に中距離選手のすらりと伸びた肢体、疾走フォームは芸術的で感動を覚えさせられる。自分の力の100%を前に進むだけのものにしようと努力した結果、そのできあがったフォームは見事である。あのように風を切り疾走してみたい、気持ちよく走ってみたいと誰もが思う。また、短距離選手や投てき選手の鍛え抜かれた筋力のたくましさも迫力がある。
日本人選手ではマラソンの高橋尚子。あの小さなからだのどこにその強さがあるのだろうか。自分もがんばればできるのではないかと勇気を与えてくれる。マイケル・ジョンソンのスピードと力強さ。モーリス・グリーンの迫力。あげればきりがない。
エ ハードル走の学習指導計画とその実施
@ 単元名 陸上競技−50mハードル走
A 単元でつけたい力
(1) 気持ちのよいハードリングのリズムを味わうことによって、より軽快なハードリングの技術に意欲を持ち、ハードル走を楽しむことができる。(関心・意欲)
(2) 競り合ったレースでのプレッシャーに負けず、自分の力を発揮するための確固たる技能の獲得に向けてのめあてを持ち、各自の目標達成の見通しが持てる。(思考・判断)
(3) リズミカルなハードリングを楽しみ、自分にあった修正課題を明確に持ち、よりスピードの出る技能を獲得したりすることができる。(技能の向上)
(4) ハードルの設置や取り扱いに注意を図り、準備運動を十分に行うとともに、運動のしかたで危険のない行い方を理解し、安全に気をつけて運動することができる。(安全)
B 教材研究
(1) インターバル
授業でのハードル走の場合、ハードルの高さとインターバルは常に問題となる。一般に行われているのが、昔の80mハードルである。第一ハードルまでが12m、インターバルが7.5m、高さは76.5cmである。ハードルは80mの距離に8台おく。または、男子用に中学生女子の100mハードルに合わせたりもする。しかし、中学生男子の110mハードルは完全に競技用であって、授業で行う教師はほとんどいない。このように何種類ものやり方が考えられるので、授業でのインターバルや高さにはかなり柔軟である。
解説書にも紹介されていたが、一人ひとりのスピードに合わせて数種類のインターバル用意する方法も一般化されてきた。しかし、そのほとんどが50cm間隔で3から4種類程度である。この「らしさ学習」では30cm刻みに通常6種類、臨時にさらに広いところとさらに狭いところを両側に作ったので、最高8種類用意した。これは、6〜8種類あれば必ず一人ひとりのスピードに合ったインターバルが見つかる可能性があるからである。逆にいうと、一人ひとりのスピードに対応するには25cmから30cm刻みで用意してやらねばならない。そして、それぞれのスピードにのって疾走する、リズミカルに快調に走れることがハードル走の第一の条件となる。スピードにのって気持ちよく走れてはじめてハードル走の授業が始まるものと考えられる。
(2) ゴールは斜め
聞き慣れない言葉かと思う。今までゴールは横一線、誰もがそう考える。しかし、斜めのゴールもあってよいのではないか。最終ハードルを終えて残りの距離を最後に疾走する。そのとき、インターバルの長いコースを走るとすぐにゴールするが、インターバルの短いコースを走ると最終ハードルを越してからもかなりの距離をまだ走らねばならない。そこで一番広いインターバルのコースの最終ハードルからゴールまでの距離を計測し、その距離をすべてのコースでゴールラインとする。つまり、ゴールは斜めになる。
これは結局、一番広いコースのみが正規の長さを取れる、一種のハンディキャップレースとなる。狭いコースになればなるほど距離はどんどん短くなる。実際やってみるとほとんどハンディキャップレースのイメージはない。それは、インターバルは変わってもハードルを跳び越すリズムはほとんど変わらないからである。1・2・3、1・2・3とインターバルは変わっても同じリズムで競り合いながら進む。途中で少し失敗すると、とたんに皆から遅れる。リズミカルに走ってくるとほとんど同時に斜めのゴールになだれ込む。スリリングなレースとなる。このことを生徒に説明するとき、「ハードリングの技術のレースだよ」というと納得する。この単元では、足の速い生徒も遅い生徒も一緒にレースを楽しみ、その技術を競い合う。
C ハードル走の指導計画
ハードル走の指導計画は表1-5の通りである。

表1-5 ハードル走の指導計画
D 授業展開
1時間目
教室でのオリエンテーション。以下のことを中心に説明した。
・30cm刻みの6種類のインターバルを用意することでそれぞれのスピードにあったインターバルが必ずあること。
・ハードルは一番低くするので誰でも跳べること。
・スピードにのってインターバルを3歩で越すところからハードル走の学習が始まること。
・単元計画と練習のしかた、特に、自分で計画して練習すること。
2時間目
「らしさ学習」による最初の授業であった。指導者の、「さあ、やってみよう。」の言葉に3年女子の生徒は何の反応もなかった。今まで先生の指示に従って動いていた生徒達は、自分でやりなさいといわれても何もできなかったのである。スタートラインの後方で、ただ腰を下ろしているだけだった。しかし、決して強制はしなかった。しばらくそのままにしてから、「気持ち良く3歩で走れるインターバルを見つけよう。」と促すと、やおら腰を上げ、一人二人とトライしていった。
ノートより 「どうしてもハードルを恐がっちゃって、3歩でいけない。もっとスピー ドをあげないと。」
3時間目
1・2・3のリズムで気持ちよく跳べることだけをねらいにし、技術的な指導は一切しなかった。生徒のハードリングに合わせ、1・2・3、1・2・3とかけ声だけをかけていた。そして、それぞれのスピードに合わせ、インターバルの選択のアドバイスだけをした。その結果、半数を越える生徒が3歩のリズムでスピードにのって走り、気持ち良さそうな顔をしていた。
ノートより 「今日はいっぱい跳べて、とてもうれしかった。今度は3個目のインターバルを跳ぶようにする。」「4番目のインターバルを最後まで跳べるようにしたい。5番目にも行きたい。」
4時間目
ここで初めてハードリングの技術の指導に入った。ポイントは次のような点であった。
a 遠くから踏み切る
b かかとで蹴飛ばすように入る
c 空中でのバランスをとるため反対の手を前に出す
d 抜き足は90度にし、膝を胸につけるように
e 前傾しながら着地する(ストップがかからないように)
f 着地の足は片足でしっかりと(1・2・3のリズムの1をしっかり数える)
一人一人それぞれの課題を意識させ、各自の走りに合ったこれらの技術的ポイントを自覚させるアドバイスをしていった。その結果、ほとんどの生徒が3歩のリズムで跳べるようになり、そのスピード感を楽しんでいた。また、気持ち良く走れたことで何度も繰り返し、疲れ果ててしまった生徒も現れた。そこで、各自のプログラムに休憩を入れることをも指導した。
ノートより 「私の課題は、着地の足で前かがみに行くこと。」「今日は5番のところが跳べてすごくうれしかった。残りは一番最後のところ。今度がんばる!!
ハードルは楽しいと思った。」
5時間目
タイムトライアルやレースを意識し、第一ハードルの重要性を指導した。スタートラインから第一ハードルまでの距離12mを何歩でいくか、そのためのクラウチングスタートの前足は右か左かを意識させ、第一ハードルをトップスピードで越す走りを心がけさせた。
ノートより 「左足を前にして、9歩でできました。」「クラウチングスタートになっ たとたん、すごく恐くなって跳べなくなった。すごいショック&くやしいぞ〜!」
6時間目
概要は一通り指導したので、ここは各自の課題発見・問題解決のための時間とした。しかし、生徒は自らの課題を発見し、その解決方法を探ろうとする意欲に乏しかった。まだまだ受け身である。先生のアドバイスを待っている。相談に来る積極性はまだなかった。
ノートより 「課題は3歩!スタートは左足を前で行く。まだ、がくっとくるので、が んばります。」「ハードルを跳んだときの1・2・3の1の足をしっかりつくこと。で も、やってみたけどうまくできなかった。意識しているのにどうしてもできなかった。 くやしい。」「第1ハードルまでがまだダメです。跳び始めたらリズムに乗れるのに。 スタートをしっかりする!!」
7時間目
ゴールを斜めにし、レースを楽しんだ。最初、斜めのゴールにきょとんとしていたが、リズミカルに走るとほぼ同時にゴールすることが分かった。インターバルは違っても、リズムはほぼ同じであった。競り合いの意味が分かってきた。同じリズムから抜け出して勝利を収める楽しさに気がついてきた。しかし、無理にでようとするとリズムをくずし、最下位に終わることをも知った。後半は、そんなレースが楽しく、疲れているにもかかわらず何度も何度もトライしている生徒もいた。
ノートより 「スポーツ万能のえっちゃんに2回も勝てて、自分の技術がうまくなった のがわかってよかったc」「3歩で行かないと勝てない。レースでは2位という成績を収めてうれしかった。」
8時間目
レースとは別のもう一つの楽しみ、各自の目標記録突破をめざしてがんばった。目標記録は50mのフラット走の記録+1秒。
ノートより 「記録に挑戦し10秒代を目指す。」「+1秒で走れた。けっこう良かっ た。」
9時間目
最後の時間ということで、ゴールを斜めにし、再度レースを楽しんだ。
ノートより 「今日筋肉痛で少しつらかったけど、やっぱたのしかった。機会があったらまたやりたい。」「ハードルはとても楽しかった。私は全部のハードル(6番目のイ ンターバルまで)をとんで、1番いいのは4個目だと分かったから、それでレースをや った。でもスピードはみんなに負けた。ちょっとくやしかった。でも、全部とべたから、 ハードルをやっててよかったと思う。」
@
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
図1-7 授業の様子(ゴールは斜め 9時間目)
@「位置について・用意」 A第一ハードル C第二ハードル後 D第三ハードル
F第四ハードル H第五ハードル IJフィニッシュ(一番内側と外側が競ってゴールイン) K順位を聞きに寄ってくる
E まとめ
50mハードル走の記録会は希望者を中心に行ったため、全員の記録は取れていない。参考までに、昨年行った1年生男子の記録を載せておく。1年生男子の記録は表1-6の通りである。目標記録は50mのフラット走+1秒だった。その平均は9秒52であった。記録会の結果はそれに0秒18と迫る9秒70になっていた。
![]()
表1-6 50mハードル走の記録
3年生女子の授業では、記録への挑戦は適当な目標設定ができなかったためか、レースでの直接対決と比べ、多少盛り上がりを欠いた。一方、「ゴールは斜め」の直接対決は、大いに盛り上がった。中学3年生の女子が短距離走系のスポーツでこれほど熱心に取り組むとは、予想をはるかに超えていた。
オ 短距離走の学習指導計画とその実施
@ 単元名 陸上競技−200m走(3年男子対象)
A 単元でつけたい力
(1) 理想のイメージをしっかりつかみ、自らの課題を達成するための意欲を持ち、200m走を楽しむことができる。(関心・意欲)
(2) 科学的な考え方を基調に200m走の特性を理解し、さらに記録を縮めるためのめあてを持ち、達成の見通しが持てる。(思考・判断)
(3) 200m走をより楽に走るとともに、記録の向上のねらえる新しい走り方に挑戦し、その技能を獲得することができる。(技能の向上)
(4) 準備運動を十分に行うとともに自分で全力疾走や休憩をバランスよくプログラムし、安全に気をつけて運動することができる。(安全)
B 教材研究
(1) 加速とスピード維持
生徒は短距離を走るとき、いつまでもスピードをあげようとする。スタートダッシュからだんだんスピードをあげ、トップスピードにもっていくが、トップスピードになってもトップスピードだという感覚がない。これでもかこれでもかと必要にスピードをあげようとする。200mでもそうである。100mならそれでも何とかゴールするが、200mともなると酸欠を起こす。そこで、走り方の指導は自動車のギアに例えて説明した。スタートダッシュはロー、続いてセカンド・サードとギアを変え、トップスピードに持っていく。トップスピードになったらギアはトップにし、あとは省エネで快調に走る。「みんなの走り方はいつまでもスピードをあげようとギアはサードのままだから、オーバーヒートを起こすのだよ。」と説明するとみんな納得した。そしてトップの走り方を意識し、トップの走り方の研究となる。スローガンは「楽して速く」である。
(2) イメージトレーニング
トップの走り方は難しい。なかなかうまく示範できない。そこで生徒の持つ「カッコイイ」イメージに訴える。生徒は一流選手のストライドの大きな流れるようなフォームをイメージさせる。シドニーオリンピックのビデオなどを大いに利用した。頭の中のイメージだけではない。実際走りながら、それも60〜70%のスピードでイメージした走りを体現していく、そんな練習である。「ガッガッガとダッシュしている。スピードがあがってきた。セカンドからサードへギアチェンジ。スピードはトップになった。さあ、トップスピードを維持し、気持ちよく省エネで走ろう。大きなストライドで軽く回転させよう。」と携帯マイクでイメージづくりを手伝う。生徒は友達同士で工夫し、イメージを浮かべて気持ちだけ疾走していた。
(3) コーナーは一つ
場の設定と練習の方法を工夫する必要がある。200mのトラックを一周したのではコーナーでスピードが落ち、記録も上がらない。せめて、少しでもよい記録を出してほしいと願い、二つあるコーナーを一つだけにし、U字型の直線部分の多いトラックに作り替えた。そしてコースは2コースのみであった。同じ力の仲間とだけ競い、それぞれの相手は各自の目標の記録である。目標記録は50mフラット走の記録×4。50mの4倍を切るのが目標となった。
練習は50分の時間内に全力疾走を1回ないし2回行うことを条件に、イメージトレーニングを中心に主体的な練習に任せた。休憩をとることをも練習プログラムに組み込ませた。
C 200m走の指導計画(6時間扱い)
200m走の指導計画は表1-7の通りである。

表1-7 200m走の指導計画
D 授業展開
1時間目
教室でのオリエンテーション。200m走と13分間走の説明を合わせて行った。
・200m走と13分間走の説明
・イメージの作り方
・トラックの形
・ラップタイムの計算のしかた
・よきコーチを探す
・シドニーオリンピックの一流選手の走りをビデオで見る
2時間目
前半ビデオのイメージをもとに軽く走ったあと、後半は試しのレースを行った。イメージの作り方の具体的な指導をしなかったため、生徒はビデオのイメージとは裏腹に、ただがむしゃらに走り、酸欠状態に陥った。おう吐する生徒も若干いた。
ノートより 「酸欠になって死にそうになった。一生懸命走っても疲れないような走りをしたい。」「31秒46を目標に、もっと楽に、もっと速く走りたい。」
3時間目
イメージトレーニングをマニュアル車のギアチェンジに例えて指導した。生徒は5割から8割のスピードで、ストライドのきいた軽い走りをイメージをもとに練習した。指導者はマイクを片手に、「手を大きく振って、いい顔をして、リラックスして。」と叫んでいた。
ノートより 「手を大きく振り、大またで走るイメージをする。」「いかに早い段階で トップスピードに乗せ、いかにそれを続けて走るか。カーブでの減速を少なくして、再 加速もすばやくする。力まずにトップスピードを維持して走る。」
4時間目
イメージトレーニングが走りに現れてきた。試しに記録を取ると、軽く走ってもタイムがそれほど落ちないことに多くの生徒が気がついた。しかし、スタートダッシュを軽んずる生徒もいた。そこで改めて中間疾走の技術はトップスピードにのった時に効果を発揮することを強調した。
ノートより 「なるべく手を大きく振って、リラックスのできる走りをしたい。」「最 後の方になるとスピードが遅くなってくる気がするが、けっして力まず、自分のペース を保って走る。タイムを計るときになっても力まない。」
5時間目
イメージトレーニングの成果が発揮されてきた。最終日を待ちきれない希望者が記録に挑戦すると、よい記録が次々と生まれた。走ったあとの酸欠状態もなく、気持ち良く走れたと満足げだった。
ノートより 「楽して速く走れるようになったので、もっとタイムを縮める。」「次はもっと楽に、30秒を切る。」
6時間目
記録会ではほとんどの生徒が試しの記録を破り、目標記録をも更新していた。走ったあとも涼しい顔をしていた。
ノートより 「うまくいったと思ったが、記録は少し落ちた。前のランナーを意識しすぎたのかも知れない。力を入れすぎたか?13分間走でもいいタイムを出したい。」
E まとめ
200m走の記録は表1-8の通りである。目標記録は50mのフラット走×4であったので、その平均は33秒96であった。生徒は当初、とても破れるものではないと疑問に思っていたが、学習を進めるに従い、意欲を燃やしていった。ベストの記録の平均は、31秒77となり、全体として当初の目標を2秒21も上回ることができた。また、目標記録を上回れた生徒は、55人中の40人、72.73%であった。
![]()
表1-8 200m走の記録
生徒は、目標記録に達したことにも満足していたが、それ以上に「楽して速く」のスローガン通り、スピードにのった快調な走り方を主体的な学習によってマスターできたことに大いに満足していた。
カ 長距離走の学習指導計画とその実施
@ 単元名 陸上競技−13分間走
A 単元でつけたい力
(1) ラップタイムを意識した走り方により記録の向上への意欲を持ち、長距離走を楽しむことができる。(関心・意欲)
(2) 互いにラップタイムを教え合い、そのペースを守ることで記録達成へのめあてと見通しが持てる。(思考・判断)
(3) 自分の力を最高に発揮できるペース配分を見つけるとともに、仲間と助け合いながら目標に設定した距離を走ることができる。(技能の向上)
(4) 準備運動を十分に行うとともに、安全に気をつけて運動することができる。(安全)
B 教材研究
(1) 時間走
長距離走の指導を時間走にしたのは、順位の競争ではなく、各自の設定記録への到達をねらったからである。一斉にスタートし、13分後に一斉に終了する。その間、200mのトラックをぐるぐる回り、みんなが入り乱れる。先頭グループは分かるが、他の順位はよく分からず、誰が遅いかは誰も気にしない。みな自分の目標に向かって黙々と走る。では、なぜ13分なのか。前半と後半で走者と記録者が交代する形をとるため時間の制約がある。そんな制約の中で長距離走を計画する。では、何mから長距離走になるか。中途半端な距離だと力のある中学生には長距離ではなく中距離走になってしまう。本当は3000mぐらい走らせたいのだが、それでは授業が途中で終わってしまう。普通は一単位時間が50分であるが、時々45分の授業になることがある。そんなとき、15分間走を2回やると休み時間に食い込んでしまう。そこでしかたなく、45分授業にも対応できる最大の長さとして13分間走が出てきた。
(2) コーチングとラップタイム
学習カードを利用してラップタイムを出す方法はずいぶん行われている。解説書にもいろいろと紹介されている。しかし、ここでの方法で一番違うところは、記録者は一周ごとにラップタイムを計算し、その都度走っているパートナーに知らせる。走者は前周のラップタイムを聞きながら走る。つまり、リアルタイムで自分の走りが分かるのである。記録者は同時にコーチに変わる。走者の目標記録のための理想ラップを念頭に、ペースの上がり下がりをコーチングする。ペースダウン時は大きな声で励ます。よって、この単元のスローガンは「よい記録はコーチと二人で」である。
(3) 学習カード
この学習カードの特長は、自分の走りが折れ線グラフになり、ペース配分が一目で分かることである。生徒も教師もその折れ線グラフを見れば、その日の走りの具体的な反省が一緒にできる。「この時苦しそうだったな。ラップが2秒も落ちている。前半少しとばし過ぎかな」。記憶や勘に頼るのではない、科学的な指導となる。もちろん生徒一人でも可能である。
C 13分間走の指導計画(5時間扱い)
13分間走の指導計画は表1-9の通りである。

表1-9 13分間走の指導計画
D 授業展開
7時間目
二人一組で13分間走に挑戦した。最初はラップタイムの計算に苦労し、何度も計算を教えてもらっている生徒もいたが、徐々に慣れ、コーチングする余裕も生まれてきた。13分間走り通すペースもだいたい分かったようだ。
A君のノートより 「若干ゆっくり しすぎたかもしれない。1周平均6 4.6秒だった。1周目〜11周目 まで65〜69秒だったから、これ を60〜64秒に縮めること。ラスト1周を30秒台で走れば、計算上2500m以上走れることになる。 1周平均50秒で走れば3000m以上走れるが、とりあえず1周平均60秒×13で2600m走れるの で、2600mを目標とし、最終的には1周平均50秒台のペースで走れるようにしたい。とりあえず1周平均4秒縮める。」

図1-8 13分間走 1回目の記録
8時間目
この授業は折しもシドニーオリンピックで高橋尚子が金メダルを取った直後であった。コーチの小出監督も注目されていた。ラップタイムの計算もスムーズにできるようになると、小出監督よろしく生徒は名監督になりきっていた。仲間のラップをコントロールし、落ちてくれば激励して、がんばらせていた。
A君のノートより 「今回は前回と比べペースにバラつきが多かった。1周平均58.2秒だった。常に55〜59秒のペースで走る。ラストスパートかけたとき、200mぐらいでバテてしまったので、ラストスパートかけたら、けっしてペースを落とさない。あと10mで2700mだったのに・・・。2600mの目標をクリアしたので、 次回は2800mを目標にする。」

図1-9 13分間走 2回目の記録
9時間目
生徒はそれぞれ自分のペースが分かってきて、同じラップを刻むようになった。天候の寒い日には走りながらのコーチとなった。
A君のノートより 「2800m走 るためには1周平均55.71秒で走る。今回は58秒ぐらいだったからペースをもっと上げる。1周平均 55.5秒で走る。前回よりムラは少なくなったが、大またで走ってみる。」

図1-10 13分間走 3回目の記録
10時間目
新たに目標の距離が設定され、それを実現すべくラップタイムも計算された。コーチと二人で目標に向かう努力の一方、4時間目ともなると気分的に疲れてきた生徒も見受けた。
A君のノートより 「最初からとば して後は気力でペースを保った。次の目標は3000m。ラップ51秒。最初からとばしてあとは気力でふんばり、最後のスパートで3000mを走りきる。」

図1-11 13分間走 4回目の記録
11時間目
最後ということで13分間走をがんばっていた。勿論コーチと二人で。
A君のノートより 「ペースを決して下げない。最低でも54秒は保たないといけない。今日は67秒とかあって、最悪だった。ペースを上げようと思ってもちっとも上がんなかった。でも、最初と比 べて370mも延びたのはよかった。」

図1-12 13分間走 5回目の記録
E まとめ
13分間走の記録は表1-9の通りである。最初の記録2462mに対し、「コーチと二人で良い記録」を目指した結果、ベストの記録は2638mに伸びた。
![]()
表1-9 13分間走の記録
ラップタイムを伝えながらのコーチの指示で理想的な走りができ、今ある力を最大限に発揮することができ、満足感も得た。しかし、5回続けての長距離走に集中力を切らす生徒も若干いた。反省として、5時間すべてを距離を伸ばす方向での指導ではなかなか頑張り通せるものではない。そこで、5時間の計画の場合ならば、真ん中に1時間、今人気のあるジョギングの楽しさを味わわせる時間を持つのも一つの工夫となろう。
キ その他の種目の学習指導計画とその実施
水 泳
「らしさ学習」の考え方に基づき、水泳というスポーツの持っている楽しさを十分味わわせたいところだが、泳げない生徒のいることを無視できない。そこで私は泳げることが原点と考え、泳げない生徒の指導を中心に授業を進めている。まずは全員が泳げればそれでよいとも考えている。TT等の条件がそろえば、また「らしさ学習」のアイディアが浮かんでくるだろう。
柔 道
危険性を伴う種目ゆえ、基礎基本がより重要視されるのは言うまでもない。この点、手を抜かず、きちんと指導しなければならないことは私も同感である。「らしさ学習」の考え方は、その練習方法に生かせばよい。生徒のねらいは多種多様だ。競技志向あり、争いたくない生徒ありの状態では、それぞれの考え方による志向別練習はどうだろうか。その中で共通していることは、柔道の特徴である「技をかけられたその瞬間、ふわっとからだの浮く状況をどう作り出すか」を研究することであり、それが競技の中で実現させるのか、あるいは仲良しの二人だけで体現するかは生徒の選択に任せてよいのではないかと考えている。
トップページへもどる